酒蔵探訪 吉乃川株式会社

2015年09月08日
酒蔵探訪

吉乃川株式会社(中越地方 長岡市)

創業天文17年(1548年)。中越地方の長岡市、JR信越本線宮内駅のほど近くにある醸造の町摂田屋に蔵を構える吉乃川は、新潟最古の歴史をもつ蔵元である。かつて殿様街道と呼ばれた三国街道沿いに、みそやしょうゆ、造酒屋の老舗が軒を並べる摂田屋は、訪れるとどこか懐かしい風景を感じる。

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時代を遡ること460年余り、越後の国では上杉謙信が春日山に城を構えた戦国時代の1548年、現経営者川上家が酒造りを始める。その後、14代目生三郎とその妻享寿(よし)が質素倹約を旨とし、吉乃川の基礎を築く。特に享寿は内助の功で夫を支えたといい、15代目栄太郎が「享寿で川上家はもっている。」と言われたことから、母「享寿」の名と母なる川「信濃川」を合わせ「ヨシノガワ」と名付けた。

仕込み水は蔵の敷地からおしみなく汲み上げられる地下水「天下甘露泉」。長岡市を見下ろす東山連邦の雪解け水と雄大に水を湛える信濃川の伏流水で、ミネラルをバランスよく含む軟水。酒質をやわらかで淡麗な味に仕上げる。

蔵元のこだわり

吉乃川が使用している酒米は全て新潟県産米。さらに「五百万石」や「越淡麗」に代表される酒造好適米のほとんどが、地元長岡やその近郊の農家で契約栽培されたものである。地の米と水を使い、地の技で醸し、地の人たちが普段飲む晩酌の酒が「地酒」であるという信念から県産米にこだわっている。

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大型タンク仕込みは、こうした晩酌の酒を造るための吉乃川の代名詞となっている。吉乃川には最大で30tの米を仕込むことのできる90kLタンクがある。1971年、これをどこよりもいち早く導入したのが吉乃川である。当時大型仕込みに否定的な時代、専門家からは不可能と言われたが、吉乃川は独自の仕込み方により成功する。小型タンクのように櫂入れはできないが、自然と発酵で対流が起こって、酸素と触れる機会がない分、酸がないやわらかな味に仕上がるという。この仕込みにより、常に安定した酒質の酒を楽しむ事ができる。

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また、大型仕込みをいち早く取り入れた吉乃川だが、最もこだわっているのは手造り少量小仕込みの大吟醸造りである。吉乃川では、杜氏はもちろんのこと、若い蔵人まで蔵の設備に触れる人間は、まずその前に全員が小仕込みの大吟醸造りに酒造りの基礎を学ぶ。この大吟醸造りができない人間には、工程ごとに人の目や手が入る大型仕込みを管理することはできないという。大吟醸造りは米を5割以上も精白するため非常にコストがかかるが、戦時中や政府統制下で酒米の割り当てが続いた間も、決して途切れさせることなく地道に造りを続け、技を磨いてきた。その結果が、全国新酒鑑評会での金賞受賞回数新潟県内NO.1の実績として表れている。甘く濃醇な酒が好まれた時代から、食生活の多様化によりすっきりとした淡麗辛口が好まれるようになると、この技で醸された酒は地酒ブームを盛り上げていった。

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蔵元の地域との関わりや取り組み

吉乃川のある摂田屋は、老舗蔵元の他にも、戊辰戦争の際に長岡藩の本陣であった「光福寺」、日本一の鏝(こて)絵を持つといわれる「機那サフラン酒本舗」をはじめとする登録有形文化財や歴史的建造物が多く残る町である。ちなみに6つある老舗蔵元の建物も国の登録文化財となっている。

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しかし、この町並みも平成16年(2004年)10月23日に発生した中越地震によって被災した。この時、吉乃川の仕込み蔵「昌和蔵」も大きな被害を受ける。電気等のインフラが止まり、何度も大きな余震が襲う中、蔵人が必死に水をかけてタンクの温度を下げることで守った酒が、多くの支援への感謝と復興を記念して出荷されたのは記憶に新しい。

この災害を機に、団結し復興を目指す摂田屋では蔵元が中心となってNPO法人「醸造の町摂田屋町おこしの会」を発足させた。毎年10月には「おっここ摂田屋市」という祭りが行われ、ふるまい酒やウォークラリーで賑わう。吉乃川ではこの震災時の記憶を忘れることなく、摂田屋の水と大地に感謝し、希望に満ち溢れた故郷を守ることを目指している。

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吉乃川厳選辛口と極上吉乃川

蔵元がおすすめする銘柄は、発売されてから既に30年を超えるこだわりの辛口、「厳選辛口吉乃川」と、460年の歴史の中で代々の杜氏が受け継いできた伝統の技と熱意を余すことなく注いだ「極上吉乃川」シリーズである。

地元長岡で「厳辛」の愛称で親しまれている厳選辛口吉乃川は、辛口一筋な吉乃川の定番晩酌酒である。なめらかな口当たりで、自然に広がるうまみとすっきりとした辛さは、万人から長年愛され続けているワンランク上の定番酒となっている。いつ飲んでもほっとするようなあたたかみのある味わい、安心感は、吉乃川の造りがあってこそだといえる。

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極上吉乃川は、昭和の名杜氏と言われた吉乃川の名誉杜氏故鷲頭昇一が杜氏として初めて黄綬褒章をいただいた記念として、傑作の酒として販売したのが原点。使用している酒造好適米はすべて契約栽培されたものであり、中には冬に酒を造る蔵人が、夏の間自ら農家として栽培している米もある。契約栽培化することで、顔の見える稲作農家との繋がりが生まれ、より品質の高い酒米を使用することができる。選りすぐった原料、そして歴史に裏付けられた技と伝統で醸されたこだわりの酒は、お祝いの席、何気ない日々の食事の席、すべての人に極上の時を演出する。

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自然と次に手の出る酒

吉乃川が目指す酒は、飲み飽きしない酒だという。主となる料理を引きたてながら、酒としての存在感も垣間見せる。食卓の名わき役として、毎日の晩酌に彩りを与え続けてきたことが長年にわたり吉乃川が親しまれてきた理由なのだろう。

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