酒蔵探訪 君の井酒造株式会社

2015年11月11日
酒蔵探訪

君の井酒造株式会社(上越地方 妙高市)

頸城三山のひとつで日本百名山にも選ばれる妙高山の麓、新潟県の最南西地域に位置する妙高市。雪国といわれる新潟県の中でも特に豪雪地帯と呼ばれるこの地では、積雪地らしい四季の変化に富んだ美しい自然環境があふれている。時に厳しい自然は10mを超える積雪をもたらす半面、豊富な雪は地下に染み込んで伏流水となり、人々に良質な水資源や農作物をもたらす。

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この雄大な自然とともに、江戸時代天保年間より酒を造り続けてきたのが君の井酒造である。記録として残る最古の資料「高田藩 榊原藩主 酒造百弐拾八石許可証」が発行されたのが天保13年(1842年)で、これを創業年としている。
蔵元の隣に位置する東本願寺別院に残された記録によれば、1878年、この寺に明治天皇の巡幸があり、その際に君の井酒造の酒が献上されているという。この出来事から「君主に献上した酒」として「君」の字を、良質な水が湧き出る井戸から「井」の字を取り、「君の井」が誕生したとか。
仕込み水は妙高山麓を源流にもつ矢代川の伏流水。万年雪に囲まれながらゆっくりと融けた雪は、長い年月をかけて山の地下へと染み入って、ほどよいミネラル分を含んだまろやかな軟水となって湧き出す。酒造りに最適な水であるとともに、酒の命ともいえる良質な米も育む。

蔵元のこだわり

一年の中で、最も厳しい季節となる冬が新潟県の酒造り「寒造り」の季節となることは有名だ。雪が空気中の塵を吸収して清澄に保ち、また気温を低く一定に保つことで酒の穏やかな発酵を促すとともに、雑菌の繁殖を防ぐ。酒造りには最良の環境をもたらすのだ。ここ妙高地域でも、厳しい積雪は人々の生活を苦難に窮める反面、同時に酒造りには大きな恩恵をもたらす。

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君の井酒造では、日本古来より伝わる伝統酒造技法「生酛造り」の一種「山廃酛(山卸廃止酛)」を使用した酒造りを行っている。現在ほとんどの蔵元で主流となっている速醸酛造りは、雑菌の繁殖を防ぐための乳酸を人為的に添加することに対し、君の井酒造で行われている山廃生酛造りでは、空気中に存在する乳酸菌を自然培養することで乳酸を得る。この乳酸菌がしっかりと定着するまでは、雑菌の繁殖が進まないように徹底した衛生管理が必要なことに加え、完成までの期間は通常の2倍以上を要する。非常に高度な技術と大変手間のかかる手法だが、これによって醸された酒は速醸酛に比べてアミノ酸を多く含み、濃醇で力強い味わいとなる。妙高の豪雪による清澄な環境と、蔵元のこだわり、熱い想いによって生まれる酒は、他の酒に比類できない仕上がりを見せるのだ。君の井酒造では代々の杜氏がこの手法を受け継ぎ、奥行きのある伝統的な味わいを醸し続けている。

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また、伝統技法を駆使する蔵の設備にも余念がない。現在の仕込み蔵は、完全コンピューター制御の自社精米機、フィラー(充填機)、ボトルクーラー、パレタイザーなど最新機器が導入され、安全性、効率性、空調の管理など、酒の品質向上がしっかりと勘案されている。この環境で、「惜しみなく手をかけた酒造り」をモットーに、日夜研究を重ねながら、酒質向上に努力を続けている。

新潟清酒の品質向上に努めた功労者「田中大五郎」

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1927年、君の井酒造の二代目田中大五郎は、平澤順次郎(朝日酒造)、吉澤勇次郎(新潟銘醸)、渡辺定治(渡辺商店)らとともに、全国に先駆けて初めて酒造りのための琺瑯タンクを導入した。当時この出来事は非常に革新的で、これによって清酒の腐造が大幅に減少し、品質や酒質の安定がもたらされることとなった。そしてこれに続くかのように、全国で唯一の日本酒専門試験場である新潟県醸造試験場が設立され、この方法が全国に普及した。この頃より、君の井酒造が先んじて使用した活性炭の効果などもあり、新潟清酒の酒質の向上が目に見えて表れていく。1932年と1934年の第13回、14回全国酒類鑑評会においては君の井酒造が他の蔵に先がけて第一位の座に輝いた。その後も君の井酒造の優等賞連続受賞は続き、第16回では名誉賞を受賞。この偉業に加え、第13回では多くの新潟清酒が入賞したことから、田中大五郎は新潟県の酒質水準を高めた大功労者として認知されている。
また、新潟銘酒の父とよばれる田中哲郎が酒造りを学んだのも、この君の井酒造であり、田中大五郎からだった。酒造業界の酒質の向上や品質安全に使命感をもった大五郎の意思を継いだ田中哲郎は、君の井酒造を含む新潟銘醸蔵元16社からなる「研醸会」を立ち上げ、新潟清酒の酒質向上に尽力した。やがてこの会の酒は全国に一大新潟清酒ブームをもたらしていくことになった。
ちなみに田中大五郎は、当社の前身新潟県酒類卸協同組合の初代理事長を務めた人物だ。

君の井 上泉本醸造と純米大吟醸山廃仕込

君の井酒造の醸造責任者である、杜氏の早津氏が自らおすすめする銘柄は「君の井 上泉本醸造」と「君の井 純米大吟醸山廃仕込」である。

君の井 上泉 本醸造

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早津氏曰く、究極の酒を造るならばそれは本醸造に至るという。純米酒に少しのアルコールが入ることによってさらに酒がまとまり、品となめらかさが出て後味もすっきりとする。酒が本来持つ力を最大限に発揮するのが本醸造造りという、そんな早津氏の理想を表現したのが君の井上泉本醸造だ。麹米に五百万石を使用し、なめらかでスマートな味わい。穏やかな香りとすっきりとした後味は、料理を選ばず、普段の食卓や晩酌に気軽に楽しめる少し贅沢なお酒となっている。冬はお燗をして、夏はすっきりと冷やしていただきたい。新潟県上越地方を中心に、長野県や北陸地方などの県外地域でも広い愛飲者をもつ。

君の井 純米大吟醸 山廃仕込

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君の井純米大吟醸山廃仕込は、君の井酒造の長い歴史と伝統を継承した蔵人の想いを、余すことなく全て注いだ山廃酛を使用した純米大吟醸だ。現在主流の速醸酛を使用する酒と比べて非常に高度な技と手間を必要とする逸品。この山廃酛と、精米歩合40%にまで磨かれた越淡麗を使って醸された酒は、香り、旨み、コク、味わい全てを兼ね備えた酒に仕上がっている。大吟醸の飲みやすさの中に山廃酛の奥行きをもつ、新潟淡麗の中でも一線を画したこだわりの酒は、ぜひハレの日の一盃に。

 

~ 友を呼ぶ酒 君の井 ~

厳しい積雪と寒さにも我慢強く負けず、他に見ることのない多くの労苦と時間をかけた山廃酛で醸された酒は、淡麗な中にも力強い飲み口で、蔵元の情熱を想起させる。造り手の思いの伝わる酒は自然と人の心を融かして動かす。

大切な友とのひとときに、感動を添える君の井を。